危険な誘惑にくちづけを
「いらっしゃい~~
 製菓学校の生徒さんが、数あるスィーツの中で、僕のケーキを選んでくれるなんて~~
 とっても嬉しいです~~」

 風ノ塚先生は、目が細くて、鼻ばかりが目立つ、ちょっとコミカルな顔だちをしているけれど。

 そんな顔をほころばせて笑うのを見てると、こっちまでなんだか楽しくなってくる。

 そんな風ノ塚先生の上機嫌さが、移ったかのように、水島は明るく言った。

「今日は、このコの彼氏さんのために、ケーキを選びに来たんです。
 パテシェの卵で、普段は、フランスにいるんですって」

 もう! 水島ったら!

 ペラペラとしゃべる、水島の言葉が、何だか、気恥ずかしくて。

 彼女のそで口を、つんつん引っ張っていると、風ノ塚先生が、興味深そうに、目を細めた。

「へえ~~
 彼氏も、パテシェなんですか、良いですねぇ~~」

 その、風ノ塚先生のうらやましそうな声に、励まされ。

 わたしは、思いきって、聞いてみた。

「あの……先生は。
 紫音……いえ。
 村崎って言うヒトを、知ってますか?
 ずっと前に、ここで、バイトしてたみたいなんですけど」

「……えっ!!!」

 その名前を聞いたとたん。

 にこにこ笑っていた先生の顔色が、変わった。
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