危険な誘惑にくちづけを
「すっかり忘れているみたいだが。
 オレは何度か、佐倉と会ったんだ。
 こーんなチビのころ、風ノ塚のケーキ屋に遊びに来てたろう?」

 紫音の言葉に、佐倉君は、クビを傾げた。

「まあ……何回かは行った覚えがあるけど……アンタ本当にバイトしてた?
 全く記憶に無いんだけど」

 本当に覚えてないらしい、佐倉君に。

 紫音は、ちょっと苦い顔で言った。

「ま。
 風ノ塚に言われて、オレだけ違うカッコでバイトしてたからな。
 今で言う、コスプレって言うヤツ?
 風ノ塚の趣味で、『王子』みたいなカッコをさせられた挙げ句。
 ついたアダナが……」

「思い出した!
 『はちみつ王子二世!』」

「ビンゴ」

 は……はちみつ王子!

 紫音が、昔、『はちみつ王子』なんて呼ばれていたコトがあったなんて!

 なんか、すごく……似合うって言うか。

 なんて言うか。

「そこ!
 春陽! 笑わない!」

「だって~~」

 今まで、ちっとも知らなかったんだもん!

 しかも。

「ねぇ、なんで『二世』なんですか~~?」

 水島まで、笑いを必死に抑えて紫音に聞いた。

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