危険な誘惑にくちづけを
 だって、二世って言うからには。

 紫音の前に、もう一人、犠牲者が居るハズで。

 クスクス笑う、わたしと水島の前で。

 紫音は、処置なし、とでも言うように肩をすくめた。

「元祖、はちみつ王子は、風ノ塚自身だと。
 ヤツが、パティシエになる前に、そんな風に呼ばれてたコトがあったそうだ。
 昔は、テレビにも出てたって言ってたが……
理由は、教えてくれなかったな」

 多分、風ノ塚は昔、売れない芸人かなんかだったんじゃねぇか?

 と締めくくり、紫音は佐倉君に向き直った。

「あのころ、たしかにあんたは『風ノ塚』だったはずなのに。
 今は、なんで『佐倉』なんだ?」

 紫音の質問に、佐倉君は、細い目をさらに細くして言った。

「さあね~~?
 親の都合なんて、オイラ知らないから。
 それよりも、彼氏サン。
 アンタ、王子って呼ばれてた頃はもっと……そう。
 ガラス細工みたいに繊細でキレイだったのに。
 なんで、しばらく見ないうちに、ムサイおじさんになっちゃったんですか~?
 オイラ、おかげで見間違えちゃったんですけど~~」

 ムサイ、おじさん!!

 佐倉君の言い草に、わたし。

 普段は、決して出ない怒りの青筋がぴくっと反応した。

 紫音は、全然ムサくないしっ!

 おじさんじゃないもんっ!!




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