危険な誘惑にくちづけを
 思わず。

 一回ぐらいひっぱたいてやろうかしら、と、詰め寄った佐倉君は。

 とっくに、紫音にげしっ、とアタマを殴られていた。

「その表現は、主観的すぎる。
 春陽の前で、そう言われるのは不愉快だ。
 訂正しろ」

 地の底を這うような、紫音の低い声に。

 佐倉君は、ぶんぶんとクビを振った。

「……ってぇな!
 オイラ、表現の自由を勝ち取るために、暴力になんて屈しないからな!
 春陽ちゃんも、桃花ちゃんも、アンタを違う風に見ているようだけど!
 オイラは、断固として、戦う……」

「訂正」

 声は、さらに低くなったのに。

 紫音は、にっこり笑った。

 大輪のバラのような、キレイで完璧な笑顔なのに。

 しっかりトゲをちらつかせ、目までもが笑ってないトコロが、なんだか、怖い。

 二発目、いつ行こうかな~~みたいに、手を握ぎ握ぎしているところなんて、特に。

 しかも。

 わたしと水島にまで睨まれて、佐倉君は、ちょっとひきつった顔をした。

「じ……じゃあ、訂正。
 昔は特撮モノの正義のヒーローみたいな雰囲気だったのに。
 なんで今は、悪の帝王みたいにイメチェンしたんですか~~?」

 悪の帝王!


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