危険な誘惑にくちづけを
 紫音は、テレビを見るのを止めると。

 わたしの部屋にいいる時には、必ず座っている定位置から、ゆっくりキッチンに向かって来た。

 本当に、皿洗いを手伝ってくれる気らしい。

 だけども。

 料理を丸々作ったのは、紫音なんだよね?

 あまりにも紫音の手際が良すぎて、作っている時には、何も手伝えなかったから……

 せめて、洗いモノくらい、自分でやりたくて。

 茶碗を洗いながら、わたしは、紫音に笑いかけた。

「見た目よりも、全然油っこくなくて、洗いやすいから大丈夫よ?
 すぐに終わらせちゃうから。
 悪いけど、座って待っててね」

「……待てない」

「……え?」

 紫音は、驚いているわたしを、後ろから抱きしめた。

 そして、わたしのクビ筋に顔を埋めると。

 そのまま、そっと、ささやいた。

「……手伝いをさせてくれないなら。
 ここで、待つ」

「きゃ……っ!
 紫音……!」

 わたしのクビに、ぞくぞくするような紫音の吐息が、かかるから。

 落ち着いて、お皿洗いなんて、出来やしない。

「ちょっと、紫音……」

「……オレは、ここでしか、待たない。
 早く、やる事を終わらせろ」

 
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