危険な誘惑にくちづけを
「言葉通り、そのまんま、だ。
 一緒に来た元気な女の子が、彼女みたいだから、大丈夫だろうが。
 春陽が、あいつの周りをうろちょろしていると。
 つい、ぱく、と食われそうでイヤなんだ」

「食われそうって……」

 狼の周りをうろうろ動く、赤ずきんちゃんじゃあるまいし。

 思わず笑うと、紫音は思いのほか、真剣な顔をして、わたしを抱きしめた。

「……笑いごとじゃ、ないんだ。
 俺にとっては、な」

「紫音」

「春陽。
 あんたは、自分がどれだけキレイかなんて、自覚がなさすぎる。
 それに、あのガキの名字が親と違うって言うことは……
 もしかすると、佐倉は。
 春陽の同情を引くような過去を、持っているかもしれない」

「そんな話を聞いたら、わたしが紫音を裏切るかもしれない、と思っているの?」

 そう、紫音が本当に思っているなら……

 ショックかも。

 わたし、紫音が好きなのに。

 紫音だけが、好きなのに。

 ちょっと同情したからって、すぐなびいてしまうほど。

 軽い女の子だと思ってほしくなかった。

 それに。

 水島を彼女だと思っている、今だってそんな風に心配しているのなら。

 実は、佐倉君には、特定の彼女がいない、なんて。



 ……とても言えない、ね?



< 63 / 148 >

この作品をシェア

pagetop