危険な誘惑にくちづけを
 紫音が、わたしのコトを信じていないなんて、ウソだと。

 きっと、半分以上は、冗談なのかと。

 わたしも、紫音に言われたのと同じくらい、と思える軽さで、紫音にささやいた。

「……紫音も、わたしの知らないところで浮気なんてしちゃ、イヤよ?
 例え、水島が由香里さんに、似ていても……」

「……!!」

 そこまで、言った時だった。

 紫音は、いきなり、カラダを引きはがすように、わたしから離れると、改めて。

 わたしの両肩を、爪を立ててつかむように、乱暴に抱いた。

「紫音……!
 痛い……っ……」

「春陽……っ!
 それは、本気で言っているのか?
 オレが、春陽を裏切るとでも……思っているのか?」

 まるで。

 獅子が低く唸るように、紫音はささやいた。

 怒ってる。

 うん、とても紫音が怒ってるのが判る。

 だけど、どうして?

 紫音がどんなにカッコよくて、他の女のヒトにモテても。

 わたしの目の届かない外国に、遠くに離れても。

 ちょっとやそっとでは、浮気するなんて、思ってない。

 それは、紫音が、わたしを信頼してくれているのと同じくらい、確かなことだと思っていたのに。

 だから、わたしも。

 半分冗談みたく言ったはずだったのに。

 ここで、そんなに怒るなんて……!

 ……もしかして、紫音は。

 わたしのコト、本当は。

 ……信用していないの?
 
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