危険な誘惑にくちづけを
 驚いて。

 涙目になったわたしの肩を、もっと強くつかむと。

 今まで聞いたこともないほど、低く声を出して、紫音は、わたしに詰め寄った。

「それに、春陽がトモダチだって連れて来た、女!
 あんたは、それを……!
 由香里にそっくりだと判って、連れて来たのか!?
 あんたは、オレをそんな風に、試すのか!?」

 紫音を試す気なんてなかったし……

 過去の傷をえぐるようなまねは、もちろん。

 ……絶対したくなかった。

 だけども。

 なりゆき、とは言え。

 水島のコトを、もしかしたら由香里さんに似てるかも…… 

 なんて、思いながら、連れて来たのは事実で……

 上手くいいわけ、なんてできるはずもなかった。

「……」

 怒っている紫音に、何て言ったらいいのか判らずに。

 黙ってしまったわたしの肩を、突き放すように解放すると。

 紫音は、ものすごく怒った顔のまま。

「風に当たってくる」と鋭くささやいて、わたしの部屋から、出て行ってしまった。

 
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