危険な誘惑にくちづけを
 なんと言っても、紫音の方が年上だし。

 そもそも、高校では副担任の先生だったから。

 紫音のやることは、そのまま、すとん、と信じて、口出ししなかったけれど。

 今回の置いてけぼりは、あんまりよねっ!

「いくら何でも、ねぇ?」

 わたしだって、怒ってるのよ!

「もう、紫音の方から電話して来ない限り、わたしからなんて、連絡しないんだから!」

 ぷんぷん、猛烈に怒っているわたしの宣言に。

 水島は、恐る恐る口を出した。

「ねぇ、春陽。
 連絡待ちは、良いけどさ。
 1ヶ月後に『菓子祭』(かっさい)があることを、彼氏さんにちゃんと伝えた?」

「……あ」

 忘れてた……って言うより……話せなかった。

『菓子祭』っていうのは、製菓学校の文化祭みたいなヤツだ。

 お菓子についての、日頃の研究の成果を、一般のヒトに見て貰う、というのが建て前で。

 本当は、来年度の新入生獲得のために、学校が力を入れてるイベントだ。

『文化際に似ている』とはいえ。

 高校の時とは違い、クラスメートは、社会に出ているヒトも多く。

 学校以外は仕事や、バイトで忙しいので居残ってまで準備するヒトはいないし。

規模も、たいしたことないけど。

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