危険な誘惑にくちづけを
「……なんで……
 ……紫音から、連絡……来ない……の?」

 そう。

 携帯には。

 紫音が、わたしと連絡を取りたがっているあとは、何にも無かった。

 相変わらず、メールも、着信も無くて。

 ただ、冷たく。

 刻々と刻まれる時間を表示しているだけで……!



 ……涙が、出て来た。




 確かに、紫音は頻繁に、連絡をくれるタイプじゃない。

 でも、必要なときは。

 大切なときは、必ず自分から、わたしに連絡を入れてくれるのに……!

 昨日の夜の別れ方は、紫音にとって、本当に大したことじゃない、って言うの?

 ねぇ、紫音!

 答えてよっ……!

 反射的に、紫音の携帯番号を押そうとして、手がとまる。

 もし……もしも。

 電話に出た紫音の答えが、呆れた声だったら、どうしよう?

 わたし、一人で大騒ぎして、空回りしていたとしたら。

 紫音との思いに、決定的な温度差があったら、どうしよう……!

 怖くて……自分から電話なんて、出来ない。


 わたしは目の前が曇るほど、涙を流しながら。


 鳴らない電話をずっと、抱きしめていた。

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