危険な誘惑にくちづけを
「なに?
 春陽ちゃん、調子悪いの?
 オイラが、送って行ってあげようか?」

 佐倉君が、耳聡く聞いて、昨日の夜のコトなんて無かったみたいに、しれっとした顔で言う。

「大丈夫よ!
 今日、一日がんばれば明日は休みだし。
 学校が終わったら『実家』に帰ってゆっくりするから!」

 わたし、一人で部屋になんていないから。

 佐倉君の思う通りになんて、動いてやらないんだから!

 そう言う意味を込めて、佐倉君をにらむと、当の本人は、寂しそうに肩をすくめた。

 そんな見かけにだって、わたし、もう、騙されないから!

「……アンタたちも、昨日何かあったの?」

 そんな、主にわたしの表情を見て、水島が心配そうに言った。

「オイラたち、実は……」

 ……な!

 ちょっと、水島にまで、何を言う気なのよ……!

 放っておくと、何を言い出すのか判らない佐倉君のセリフを、わたし、横からもぎ取っちゃった。

「何にも、ないわよ!」

「春陽ちゃん、オイラ……!」

 何よ!

 佐倉君は、自分が傷ついたような顔をして……!

 本当に、ヤなのは。

 傷ついたのは、わたしの方なのに……!
 
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