危険な誘惑にくちづけを
 そんな、怒りの感情のままに言って、は……と気づく。

 佐倉君を、怒らしたら……機嫌を損ねちゃいけなかったんだ。

 ヒトに見られたくない声と写真が、佐倉君の手に握られていたんだった……!

 そのことを思い出して恐る恐る佐倉君を見ると。

 わたしに言葉で、抵抗されたはずなのに、佐倉君は怒った顔はしていなかった。

 それよりも、とても悲しそうな。

『悪い狼』って言うよりは『誰にもかまってもらえない仔犬』のようで。

 見間違いかもしれないけど、自分のしたことを後悔しているようにも見える表情で。

 彼は目を伏せると「また、放課後、な」とささやいて離れて行ってしまった。

「佐倉君……」

 その様子に、思わず佐倉君の後を追おうとして、わたし自分の手をきゅ、と握る。

 ううん!

 わたし、流されない。

 だって、本当に後悔しているのなら。

 声も写真も消したって言ってくれるはずだもん。

「ねぇ……春陽たち、本当に……」

「……何も無いったら!」

 心配そうな水島に、なんとか笑って、わたし。

 もう、佐倉君のコトも……紫音のコトも。

 深く考えないで、授業を受けるコトに決めた。

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