危険な誘惑にくちづけを
 


 ……こんな日ほど、学校の授業は早く終わる。

 実習班が佐倉君や水島と別なコトを幸いに。

 どちらからも、余計なコトを言われる前に家に帰ろうと、授業道具をカバンに詰めて、すぐ教室を飛び出した。

 ……のに。

 学校から少し離れた、人気の少ない道にさしかかったとき。

 あと、もう少しでJRの駅だというところで。

 ちょっと皮肉っぽい、静かな声が後ろから、かかった。

「春陽ちゃん。
 もちろん、今日は。
 これからオイラと付き合って、くれるんだよね…‥?」

「……佐倉君」

 そう。

 佐倉君は、わたしよりも早く実習が終わってて……待ってたんだ。

 クラスメートのいる教室と、人通りのない外の道で佐倉君と会った場合。

 どちらがマシかなんて、判らなかった。

 暮れかけた陽の逆光で、良く表情の判らない佐倉君が、わたしのそばに、近づいてくる。

「ねぇ?
 春陽ちゃん……?」

 佐倉君が近づいてくるのが、とても怖くて。

 彼が、踏み出してきた歩数の数だけ、わたしは、下がる。

 無意識に。

「……なに?」

「逃げないでよ」

「逃げてなんか、な……」

 とんっ、と。

 わたしの背中にブロック塀が、当たった。

 
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