初めての恋は甘くない
出会いまで
空き缶をコートの端に置いてするサーブの練習や120×3セットのスクワットに耐えられなくなって大学進学のための勉強を言い訳に部活を辞めてから、蒼子の体重はみるみる増加の一途を辿った。理由は簡単、運動量、つまり消費カロリーが激減したのに摂取カロリーが元のまま…むしろもて余した時間を食べることに費やし、それ以上になったからだ。朝はコーヒーだけなどとのたまう同級生達を尻目に蒼子はしっかり朝食を平らげ、午前中の休み時間を使って二段重ねの弁当を消化し、昼は購買のパンを二つか三つ注文し、あまつさえ学校帰りに菓子屋に寄っては桜餅だのシュークリームを買い、甘いものを食べた後は塩分を摂取したくなってポテトチップス一袋を空にした後、何事も無かったかのように家族と夕食を共にした。やがて48キロ程だった体重が158センチで60キロという数字を叩き出すようになっても蒼子の食欲は留まることを知らなかった。短いスカートもはかず、ルーズソックスにも手を出さず、髪を染めることも、授業をサボることも無く、成績も中の上くらいで、取り立てて取り柄がない彼女の、食に対する執念だけは周りの友人達よりも遥かに高い水準に達していたのだ。
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