砂に書いたアイラブユー
た。
 

 フローラルフルーティー系の心地よく、清潔な匂いだ。


 僕たちはしばし見つめ合った後、奈々がもう一度振り向いて、ターミナルへ向け歩いていく。


 後ろ姿が見えなくなるまで見送った。


 僕も奈々も満たされている。


 交わしたキス一つで。


 そして僕は彼女の姿が見えなくなると、自分の部屋へと帰り着くため、歩き出した。


 ちょうど四月で、新年度が訪れている。


 何かを始めるには絶好の季節だ。


 と言うよりも、僕宛に出版社から雑誌連載の原稿の依頼と、単行本の書き下ろしの件が来ていた。


 僕は異色の作家として注目を集めていた。


 大学を半ば勢いで中退し、新人賞を受賞してデビューした経緯があるのだから……。
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