砂に書いたアイラブユー
 彼女が簡単には会えない、遠いところにいたからである。


 だが、僕は相変わらず原稿の依頼が欠かさず来ていたのだし、奈々も大学の授業や合間を縫っての図書館浸りで大いに研鑽(けんさん)しているようだった。


 僕は一人で原稿を書き、彼女は文学を勉強する――、この状態が少なくともあと八ヶ月間は続くわけだ。


 どうしようもなく人恋しい日もあるにはある。


 僕も人間なのだから……。


 そういった場合、掛かりつけの心療内科に電話で相談していた。


 僕はつい最近、原稿の書きすぎでメンタル面での疲れが目立っていて、家から自転車で二十分ほどの場所にある精神科の病院に通っていた。


 さすがに作家という職業柄か、精神を病みやすいのは事実だ。


 そしてそういった悩みをドクターや看護師さん、ソーシャルワーカーの方たちに相談することで解決していた。


 精神系の病気は決して珍しいものじゃない。


 一人でする仕事は孤独に陥りやすいのだし。
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