砂に書いたアイラブユー
 彼女は自室を引き払い、僕のマンションへと引っ越してきて、新しい生活が始まった。


 いつの日か、海辺の砂浜に書いていたアイラブユーの文字は僕の頭の中にはもちろん、彼女の頭の片隅にも残っていたようだ。


 それから先、僕が職業作家として原稿を書き続け、奈々は大学院に進学した。


 彼女は学生だったから学生結婚だったが、別に気にはしていない。


 実に五年の交際期間を経てのゴールインだったのだから……。


 そして僕は知ることになる。


 彼女が僕と住み始めて、胎内に新しい命を宿したことを。


 いわゆる妊娠で、僕たち二人に加えて、新しい家族が出来たわけだ。


 もちろん産んで育てるというのを前提にしての妊娠だった。


 僕たちは互いに意気軒昂(いきけんこう)で、奈々はお腹が目立ち始めるまで大学院に通い、一度休学するつもりでいるようだ。


 二人の幸せは新しい命へと託されていく。


 これから先、どんなことがあるのか、僕にも奈々にもまるで分からないまま。
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