砂に書いたアイラブユー
第16章
     16
 出来上がった原稿は丸々一週間掛けて繰り返し推敲し、すぐに送った。


 日本ミステリーノベル大賞は難しいのである。


 現役のプロ作家が挑戦しても、二次審査ぐらいで落選してしまうというケースが過去にもあるにはあった。


 そして僕はその年の十二月に大学の事務局に退学届を出した。


「せっかく卒業できそうなのに、未練はないの?」


 事務の男性からそう訊かれて、僕が、


「ええ。別に卒業証書要りませんから」


 と言った。


 すぐに事務局を出、正門から出て、自分の自宅へと戻る。


“もう二度と講義を受けることはない”


 そう思いながら、僕は歩き続ける。


 退学後もしばらくは自分の今の部屋で暮らすつもりだし、夜勤のバイトも欠かさずに行
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