砂に書いたアイラブユー
 僕たちはそれを見続けている。


 夜の帳が下りてくるまで。


 誰にも邪魔されず、二人きりになれるのを待ちながら。


 いつしか辺りは暗くなり、漆黒(しっこく)の夜空が舞い降りてきていた。


 ふっと目を上げると星が見える。


 たくさんの星が空で輝き続けるのを見つめながら、僕たちは各々自転車に跨って、ライトを灯す。


 帰り際に交わしたキスの味は、少ししょっぱい感じがした。


 海に長い時間、い続けたからだろう、僕たちは唇表面に磯の匂いがこびり付いているのが自分でも分かる。


 そして自転車に乗り、僕も奈々も自宅へと帰っていく。


 春の夜は生暖かかった。


 暖気が辺りに滞留している。


 僕たちは自転車を漕ぎ続け、町の中で別れる。
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