ソラの神
 横になっていた草原から急激に体を起こして立ち上がったものだから、ソラは少し眩暈がした。焦げ茶色のローブを引き摺るように前のめりに倒れこみそうになる。青灰色の瞳が一瞬ぶれる。

「あ、れ?」

「大丈夫!? ソラ!」

 パミラは両手でしっかりとソラを抱きとめた。

「あ、ご、ごめ……ん。ちょっと眩暈がして……」

「そう。本当に大丈夫?」

 心配そうに覗き込んでくるパミラ。ソラはそんなパミラを安心させようと、大丈夫とばかりに笑顔を作る。

「大丈夫なのね。なら、とっとと、お師匠様の所に行くわよ!」

 一安心したように吐息を吐き出すと、パミラはソラの手を引いて師匠の居る小屋の方へと駆けて行く。手を引かれながらも俯き、何もいえないで居るソラ。ただ引かれるままに師匠の小屋に到着する。

 その小屋は木造の平屋だった。丸太を組んで作ってある。その小屋から一人の男性が出て来て二人とすれ違った。その人は空色の髪の毛に瑠璃色の瞳を持っていた。

「あ、お父さん。今日は何しに来たの?」

「いや、ちょっとな……」

 パミラと男性がひとしきりたわいもない話をしているとき、ずっとソラはその男性を見ていた。不思議な面持ちで。

「お師匠様ー! ソラを連れてきましたー!」

 木の扉を丁度三回ノックして、パミラは声を張り上げた。中に居る人に届くように。

 中に居る人の気配が扉に近付いた。そして、扉が内側に開いていく。中の人が顔を覗かせた。その人――師匠と呼ばれたその者は長い金髪を後ろ手に軽く縛っていた。灰色のローブを纏い、同じ灰色の瞳を細めて微笑していた。彼が“灰色の魔術師”と異名を取る所以である。

「やっと来ましたか。ソラ」

「ご、ごめんなさい! 遅くなって……」

 謝りながらも上目遣いで師匠を覗き見るソラ。ソラは無意識の内に師匠を、一種の恐れのような眼差しで見ていた。それは日頃の行いから来るものであったが、それほど師匠“灰色の魔術師”は恐れられていた。強大な魔力を持ち、数多の知識を持ち合わせ人々から畏怖と尊敬の眼差しで見られている、そんな師匠をソラも尊敬すると同時に恐れてもいた。

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