ソラの神
 記憶が遡って行く。子供の頃の記憶、生まれた頃の記憶へと――。

 ソラの目の前には瑠璃色の瞳を持った、空色の髪を肩のところで切り揃えている男性が居た。ソラはそれが“神様”だと一瞬で認識した。そして、彼が自分を作ってくれた男だと言う事も。

 男は、右手をソラの頭に乗せると、言い含めるように語り聞かせた。

「いいかい? ソラ。君は今日から、パミラの弟になるんだ。パミラの弟として生きていくんだ。パミラの弟としてパミラを守って」

 その言葉を聴いた瞬間、ソラの頭の中に今までの事、自分が作られた本当の意味を知った。

 そうだ。自分は作られたんだ。この、空色の髪の男の手によって。自分は、錬金術によって作られたホムンクルスなんだ! パミラのために。パミラの弟として生まれて来た人造人間――。

 その瞬間に、ソラを包んでいた淡い光は弾けた。同時に記憶の鎖も。

「お、俺は、俺はホムンクルスだったんだ……」

 ひとりでに涙が零れ落ちる。

「そう。お前はホムンクルスなんだ」

「今まで神様だと思っていた人は、俺を作ってくれた人だったんだ……」

「……」

 辺りを沈黙が支配した。

 パミラは何の事だか訳が解らないといった表情で、二人を交互に見遣った。これからソラと如何接していけば良いのか、戸惑いをその瞳に宿して。ただ、ソラが今まで自分の知っているソラではなくなった事だけはよく理解しているようである。

「あ、あの、ソラ?」

 パミラが恐る恐るソラに声を掛けると、ソラはパミラに向き直って言った。

「パミラ。俺は、君の弟として作られたホムンクルスだったんだ。君の、弟なんだよ」

 ホムンクルス。錬金術の秘術によって作り出される人工の生命体。パミラはその“ホムンクルス”という言葉を聴いて初めて何がどうなっているのか解った様に、驚いて目を見開いた。

「お姉ちゃん。俺は、お姉ちゃんを守る為に作られたんだ」

 パミラはこれから起こるであろう怖ろしげな予感を思い、眩暈に襲われた。
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