あなたが触れる度に
美紀と別れてホームのベンチに腰掛けた。
見上げた空に、楠本さんが浮かぶ。
馬鹿だ、私。
定期から覗かせた名刺。
なんだかいきなり価値の無いものに感じる。
私、楠本さんのこと、何も知らない。
何故か視界がぼやけて
自分でも慌てる。
すると、鞄からのバイブ音に気付いた。
―雅樹…
着信は鳴り続け、
やがて切れた。
これから電車に乗るから電話に出なかった、わけじゃない。
…じゃあなんで?
この時の私は、
まだその理由に気付けてない。
いや、気付かないフリをしてた。