あなたが触れる度に


「指輪、してないね?」


「え?」


「俺がスカウトした時は、してたから。ここに。」


楠本さんは左手の薬指を差した。

見られてたんだ…


「今日は、バイトあったから…」

違う。


いつもは、必ずしてた。
雅樹がプレゼントしてくれた、指輪。


今日は…


「俺が、いたから?」


「へっ…?」


「俺がいたから、してないの?
そんなの気にしなくていいのに。」


楠本さんは苦笑した。


「違います!」


そう言いたいのに。


言いたいのに……





言葉は喉をつかえ、
何も出てこなかった。






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