あなたが触れる度に


―ああ、ダメだ。


胸が苦しくなる。


「楠本さん…私…


「カットモデル。」


「…え?」


「カットモデルの、件。慌てなくていいから。」


突然の話に、現実に戻った気がした。


やっぱり、用件はそこだよね。
別に私に会いに来たんじゃない。

私という、カットモデルに会いに来たんだ。


「わかり…ました…。」


心なしか、声が小さくなる。


「まぁなんだかんだで、菜々ちゃんに会いに来たんだけどね。」


「……へっ!?」


今、何て?何て言った?!


「よし!じゃあ行こっか。」


「え、もうですか?!」


「なに、まだ一緒にいたいの?」

楠本さんは私にズイッと押し寄る。


「ち、違います!」


「あはは。冗談だよ、冗談。
彼氏さんにも怒られちゃうからね。」


そう言って、わざとらしく肩をすくめた。


―“彼氏”。


その言葉はまるで、


私たちを隔てる壁のようで、
妙に耳に残った。





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