あなたが触れる度に


「菜々ちゃん…」


泣きそうになって下を向いた。
体が微かに震える。


私は震える肩を抱き締めた。


その手に、重なる温もり。


「…えっ…?」


擦れた私の声は、

抱き締められたのと同時に消えた。

どういうこと…?
ふんわりと甘い香がする。

そして、暖かい温もり。


ああ、私は、もう隠せない。

今にも溢れそうなこの気持ちを。泣きだしそうな、幸せを。



「…菜々ちゃん、俺は…



―カラン…


まだ開店していないサロンの扉が開く音がした。


おかしいな
この場所を知っているのは
私たちしかいないはずなのに。





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