あなたが触れる度に

そして、今に至る。


「さっきから言ってますけど、私は髪切るつもりはないんです!」

「あ、名前は?」


「…は!?」


「君の、名前。」


まじまじと顔を見つめられるから思わず息を飲んだ。


―ごくり。


まさにこの効果音が似合う感じ。

「私は…塚本 菜々です…。」


「菜々ちゃんね。
俺は、楠本 稔。ここの近くのサロンで、美容師やってます。」

―クスモト…ミノル…


美容師さんか…
一歩間違えたらモデルさんだよ。

「何か飲みたいものある?
俺払うからさ。好きなの頼んでいいよ。」


いや、頼みにくいでしょ。


「すいませ〜ん。」


なんて考えているうちに、
楠本さんはウェイターを呼んでしまった。



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