あなたが触れる度に


美紀も驚いていた。


でも私が楠本さんに手を引かれ
立ち上がったのと同時、


目が合うと、
暗黙の了解かのように
美紀が優しく微笑んだ。









「大学ってこんな感じか〜。」


楠本さんは私の隣に並び、
楽しそうに辺りを見渡す。


まるで観光地にでも来たかのように。


「楠本さん、大学に来たことないんですか?」


「うん。俺は専門学校だったからね。行くとしても友達の学祭くらいかな?」


そうか。
美容師さんて、専門に行くんだもんね。


「菜々ちゃんは、こういう生活をしているのか。」


「そんな大したことしてないですけどね。」


私が笑うと、楠本さんも笑った。


なんだかそれが、無性に嬉しかった。


でもどうして楠本さんは大学に来てくれたんだろう。
それに、どうして場所を知ってたの?


「楠本さん。」


そう私が声をかけようとした時、

―ピタリ


まさにこの音のように、
楠本さんが足を止めた。








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