天使になれなかった。
昼休みをつげるチャイムが狭い教室に響きわたって、生徒の話し声をいっそう大きくする。
「きりーつ。れーい」
学級委員のやる気のない声で、午前の授業は締めくくられた。
輪になって弁当を広げたり、教室をとびだしたり解放感を満喫し始めた。
凛羽を横目で探す。
───いた。
教室内で最も騒がしいところに凛羽はいた。
凛羽は髪をクシャクシャっとされて、子犬のようにじゃれあっている。
屈託のない笑顔。
彼のずば抜けた演技力は文字通り非凡。
あたしでさえ、今までの光景も昨日のことも幻だったのかもしれないと思う。
誰かが、気付くはずないのだ。
あたしは、机の中から読みかけの本を取り出してひろげた。