天使になれなかった。
蓮見の後ろ姿を呆然と眺めながら立ちつくしていると、カバンのなかで携帯のバイブが鳴った。
「もしもし?」
『もしもし?アイちゃん?』
いかにも脂ぎった中年の声が耳元にざらついた感触を残す。
『僕……上島です』
「あ……はい」
『今日15時にSホテル前に待ち合わせだったの覚えてる?』
「……はい』
『僕、黄色の紙袋をもって待ってるから』
「わかりました…」
あたしは電話を切ると、蓮見から視線を放し再び歩きだした。