天使になれなかった。
「いつの間にか夢なんて見ることができなくなって、どんどん息ができなくなって、いつの間にかこんなに汚れた俺を気付かれたくなかった」


あたしは真っ直ぐ月を見上げている凛羽の綺麗な横顔を見つめた。
歪みのない曲線美を目でたどる。

「気付かれたら、もう二度と誰も俺の名前なんか呼んでくれないと思ったから必死で隠してた」

凛羽がふいにあたしの手を握る。
柔らかで暖かなその手の感触を確かめるように握りかえした。


「……もう絶対誰も本当の俺をみてくれないって思ってた…」



凛羽が真剣な瞳であたしを見つめる。
凛羽の茶色がかった瞳にあたしだけがうつっている。


< 127 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop