天使になれなかった。
重たい家のドアをあける。
重たいと感じるのは、たんなる拒否反応なのかもしれない。
いたって普通の家。
あたしにとっては地獄の入り口。
なるべく足音をたてないように中へはいる。
心臓が暴走して潰れそう。
「……帰ってきたの?」
鋭い視線と冷たい声に息を忘れた。
「………」
どこにでもいるような少し洒落た40代女性。
近所では社交的で明るい良い奥さんと評判。
だけどその裏に隠された鬼の姿を、あたしは知っている。
彼女は鬼の瞳をあたしに突きつけて見下すように去っていった。
吐き気をこらえて二階へ駆け昇る。