天使になれなかった。
親父は涙目で鼻水をたらしながら、財布から目を疑うほどの札束をぬきだして蓮見にわたした。
蓮見は慣れた手つきでそれを確かめる。
「写真は明日の4時にここにきたら返してあげる」
そして崩れ落ちていく親父の耳元で囁いた。
「綺麗な世界になったらいいね──……」
立つことさえできなくなった親父をおいて何事もなかったかのように蓮見は歩きだした。
あたしは崩れた顔でしゃがみこむ親父を氷のように冷たい眼で見下ろして静かに蓮見の後を追った。