天使になれなかった。
静かに扉をあけた。
誰もこちらをみない。
義理父は厳しい顔つきで新聞を眺めて
義理母は皿洗いをしている。
義理父と義理母の間にはひとり娘がいて、名前は華恋といった。
あたしの義理の妹。
名前負けしない愛らしい顔をしているが、可愛いと思ったことは一度もない。
テレビの音と皿洗いの音と新聞をめくる音が混じりあって、父と母と娘の何気ない朝が始まる。
「華恋、早く朝ご飯食べないと遅刻するわよ」
「あぁ!お父さん!!チャンネル変えないでよ!!」
「おい。コーヒーもう一杯くれ」
誰がみても普通の家庭の朝。
少し違うのは、あたしという存在だけ。
テレビをみている華恋の隣の席に、あたしは静かに腰をおろした。
そのとき空気が一瞬だけ張り詰めたのがわかる。
だけど誰もそれを口にしない。
それがこの家のルールだから。