天使になれなかった。
昼休みの騒がしい教室で、あたしは変わらずに1人自分の席で哲学書を流し読みしていた。
凛羽はというと、さっそく女の子たちに絡まれていた。
「ねね、凛羽!オーディション受けてみない?」
「あたしらが応募してあげるからさ!」
「やー…俺、そういうの興味ないんだぁ」
申し訳なさそうに断る凛羽に女子たちは推し続ける。
「もったいないって!」
「そーだよ!絶対凛羽なら採用されるから!」
「受けようよー!」
甘ったるい声が耳につく。
あたしは心で嘲笑った。
凛羽が?俳優?
人を何食わぬ顔で突き落としていくヤツが?
俳優より悪徳業者向けな気がする。
だけど学校での凛羽は明るい性格と端正な顔立ちから、確かに他の男子より群を抜いて目立つ存在で、ファンといってもいいような女子は溢れるほどいる。
あたしだって、そんな凛羽からあんな容赦ない作戦が作り出されるなんて未だにどこか信じられない。
「ごめんなぁ」
子犬のような眼差しで謝る凛羽に女子たちはいっせいに騒ぎ立てた。