天使になれなかった。
放課後一人でぼんやり本を読みふけていると、人影があたしを覆った。
顔をあげれば、担任の保田が安っぽい笑顔を浮かべてこちらをみていた。
「なんですか?」
本を閉じて、下から保田の顔を横目で睨む。
こいつの偽善的な笑顔は気に食わない。
そういう笑顔は侮蔑よりも“異端”であることをはっきり告げられてる気がするから。
「読書中にごめんね。今日中に提出のプリントがあるんだけど蓮見くんが欠席だから、手嶋さん預かってきてくれないかしら?」
あたしは黙ったまま保田の顔をみつめる。
「……いいですよ」
「ほんと?!ありがとう!!先生助かるわ。ほんと手嶋さんは優秀で自慢の生徒ね」
嘘つけ。ほんとは優等生のあたしが断らないことを知っていたからだ。
保田は気分よさそうに凛羽の家までの地図を書きだした。