天使になれなかった。

雨粒が窓にぶつかって鈍い音が静かな車内に響く。
どす黒い雲はどんどん巨大化して、あっと言う間に小さな街を飲み込んでしまう。

ふと見えた斜め前に座る堅物サラリーマンが真面目な顔して読んでいるスポーツ紙には『暴かれた!黒い社会の正体』という見出しがデカデカと書かれている。


ヒソヒソ声で話す二人組のおばさんの話題も、そういう世の中の不満。
『怖いわね~』なんて言いながらその顔は好奇心に満ち溢れていた。


急に、触られてもないのに親父の感触が肌に蘇ってきて、車内の隅で静かに吐き気をこらえる。


──浸食されている。


雨粒が飛び散って叩きつけられる窓にもたれた。


< 74 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop