天使になれなかった。
雨粒が窓にぶつかって鈍い音が静かな車内に響く。
どす黒い雲はどんどん巨大化して、あっと言う間に小さな街を飲み込んでしまう。
ふと見えた斜め前に座る堅物サラリーマンが真面目な顔して読んでいるスポーツ紙には『暴かれた!黒い社会の正体』という見出しがデカデカと書かれている。
ヒソヒソ声で話す二人組のおばさんの話題も、そういう世の中の不満。
『怖いわね~』なんて言いながらその顔は好奇心に満ち溢れていた。
急に、触られてもないのに親父の感触が肌に蘇ってきて、車内の隅で静かに吐き気をこらえる。
──浸食されている。
雨粒が飛び散って叩きつけられる窓にもたれた。