天使になれなかった。
地図の指し示す通りに歩くと割と大きな一軒家にたどり着いた。

表札にはHASUMIと彫られている。
間違いなく凛羽の家だ。

アイツ、そこそこ金持ちのお坊っちゃんじゃない。



冷たい空気でかじかんだ指をインターホーンに押しつけると、チャイムの音が家の中に響いているのがわかった。

『……はい』

数秒後に聞こえてきたのは機械越しの凛羽の声。

「……手嶋です…」

『え?藍?ちょっと待っててな』


そこで機械越しの凛羽の声は切れた。

風邪というような感じではなかった。
……やっぱり仮病だったのか。
分かってはいたけど、あたしは激しい脱力感に襲われて溜息がもれた。

いつも元気な凛羽の突然の欠席にあたしも心のどこかで少し心配したのかもしれない。

これも同志の情ってやつだろうか?

まさか。
あたしたちにそんなものは存在しない。

プリントを預かったら、さっさと帰ろう。


濡れた髪から落ちる滴が肌を撫でて、こそばゆい。
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