天使になれなかった。
しばらくしてドアがガチャリと音をたてて開いた。
あたしは反射的に体を堅くする。
中から、スウェット姿の凛羽が現れた。


「え?何?どうしたの?突然の訪問でかなりびっくりなんですけど…」

「プリント…提出してもらいたいのがあるから預かってこいって……」

そこであたしの言葉は凛羽に遮られた。

「すっげー濡れてるじゃん!カサ持ってなかったの?中入れよ、風呂わかすから!」

あたしの足下には滴る雫が作り上げた水たまりができていた。

凛羽のもともと大きな瞳はさらに大きく見開かれて、濡れた野良猫のようなあたしの姿を凝視する。

ずぶ濡れのせいで、さっきから寒気がとまらないので凛羽の言葉に甘えることにして大人しく中に入った。

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