運命なんて信じない。
ウェンズは、片眉だけ上げて、「そうか――?」と聞き返すと、カウンターにいるチョビ髭で頬骨の出たマスターに注文しながら短剣を渡しました。
マスターは、お盆にパンとスープを2つずつ乗せます。
「にーちゃん、まいどあり!!」
「おぅ。ありがとな――、マスター」
彼はマスターに礼を言うと、お盆を持って、客の隙間を縫うように移動してゆきます。
「わ、ちょっと」
(相変わらず速いなぁ………)
サリはやっとこさ付いて行くので精一杯です。
サリが人の波に阻まれて進めなくなっていると、彼がお盆を右手だけで持ち、左手で彼女の右手首を掴み、引っ張り出してくれました。
「あ、りがと」
サリは、彼の背中に向かってお礼を言いますが、
「ん?あぁ、気にすんな――」
彼は、そんな事全然気にする様子はありません。
彼の手は程よく温かくて、サリにはそれが心地よい物でした。
ウェンズは、一番奥のテーブルにお盆を置くと、サリの手を離します。
サリは、右手首から離れていった体温を、少し寂しく思いました。