運命なんて信じない。
その時、背後から酒臭い吐息と共に、声を掛けられました。
「おい、ネーチャン。お酌してくれっつったの聞こえなかったのかぁ?」
彼女の肩には、毛むくじゃらで生暖かい手。
サリは、全身の毛穴が一気に開く感覚を覚えました。
自分の腕を見ると、これでもかというくらいの鳥肌が。
勢いよく振り向くと、そこにはさっきのタンクトップの男が、ニヤニヤ笑って立っています。
サリは、男を睨み付けて声を上げました。
「……っ、やめて下さい!!」
いつもはこんな事できませんが、今はウェンズがついているという安心感があるので、ちょっと勇気を出す事ができました。
ところが、それを男は気にもしようとせず、
「いいじゃねぇかよ〜〜〜」
と、強引にサリを連れて行こうとします。
――この感覚、知ってる……
確か……2番目の………
「……嫌っ、ウェンズ、助けてッ!!!」
サリは、過去を思い出さないよう必死に声を張り上げ、気持ちを誤魔化しました。
その様子を店の客は、興味津々で見ています。中には、口笛を吹いて囃し立てる者もいました。
ウェンズが椅子をガタンッと鳴らして立ち上がります。
「おい、オッサン。悪いんだけどコイツ俺のツレだから、ナンパすんなら他の女にしてくれねぇかな」
笑顔ですが、目は笑っていません。
見る者を凍らせるような、冷たい笑顔でした。