運命なんて信じない。
「お、おい、死神だ!!! 死神がいるぞ!!! アイツを捕まえてどっかの地主にでも渡せば、一生食い物にゃ困らなくて済むぜ!!!」
上半身裸の、色黒な大男が声を上げました。
その声に我に返った客達。
ある者は「止めとけ、殺られるぞ!!」と言いながら店を出てゆき、また別の者は武器を手に取り、ウェンズに襲い掛かろうとしています。
今の店内を言葉で表すなら―――“混沌”。
この2文字が、一番しっくり来るでしょうか。
倒れたテーブルや椅子。
床には、割れたジョッキの破片やツマミなどが散乱している状態です。
ウェンズは、顔に歪んだ笑みを貼りつけ、ゆっくりとした動作で色黒の男に向き直りました。
サリは、その背中をただ見ている事しかできません。彼女はマフラーをぎゅっと握り締めました。
男の顔が引きつって青ざめていくのが分かります。
「………ッ、んだテメェ、何笑ってやがる!!!」
ウェンズの笑みに恐怖心を隠すので精一杯のようです。
彼は今、猛烈に後悔をしている真っ最中。
(く、そ……何だコイツ!!! 何でこんなに大勢の大男に囲まれて平然としてられんだよッ!!!
ていうか、何で俺はこんなヤツに喧嘩吹っ掛けちまったんだよ……!!!!)
色黒男が最後に見たのは、ウェンズが姿勢を低くして床を蹴るまででした―――………