運命なんて信じない。
ズガァァァァン!!!
部屋中に響き渡る耳をつんざくような音。
その場にいた全員が音がした方を振り向くと、ヒビの入った壁にさっきの色黒男がめり込んでいるのが目に入りました。
「……え………?」
サリには、何がどうなったのか分かりません。
真後ろに吹っ飛んだ彼の体は、くすんだ白い壁(今は血で紅くなっていますが)に埋まって気絶しています。
さっきまで彼が立っていた所にいるのは、左手を真っ赤に染めたウェンズでした。
ウェンズは左手をペロリと舐めると、恐怖におののいている人々に冷めた笑顔で言い放ちます。
「まだ殺り合うつもりかぁ?」
「…う……わあああああぁぁぁ!!!」
暫く恐怖に足が竦んで動けなくなっていた男たちは、ウェンズの声を合図に、我先にと出口へ走ってゆきました。
倒れたテーブルなどに躓いて転ぶ人。
そんな人に足を引っ掛け、更に転ぶ人。
そしてそれを踏ん付けてまで、自分を守るため走る人々。
ウェンズに殺される前に、踏み潰されて死ぬ人が出てくるのではないか、と思う程です。
サリは腰が抜けて、その場にへたり込んだまま動けません。
もう酒場には、ウェンズとサリ、それに気を失ったままの壁にめり込んだ男だけになってしまいました。