運命なんて信じない。
chance
ウェンズは、つっ立ったまま石像のように微動だにしません。
サリはどうして良いか分からず、目に涙を溜めながら
「……ウェ…ンズ………?」
消え入りそうな、か細い声で呼び掛けました。
その声に反応して、ウェンズがサリの方を見ます。
「――――ッ」
サリは溢れそうになる涙を、唇を噛んで堪えなければなりませんでした。
振り向いた彼は、驚く程無表情で。
いつも笑顔を絶やさず、表情豊かな彼を見ていたサリには……彼の表情が信じられなくて。
それと同時に、自分と彼の関係が壊れてしまった事を実感させられたからです。
「なぁ」
彼がフッと微笑んで近づいてきました。
相変わらず目だけは笑っていません。
出会ってから今までに、何度呼び掛けられたでしょう。
この短い時間のうちで何度この声の持ち主に……彼に助けられたでしょう。
肉体的にも、精神的にも。
彼のブーツの足音だけが、嫌に部屋に響きます。