運命なんて信じない。
サリは、首を大きく横にぶんぶん振りました。
細い金髪が揺れます。
「……無理。できないよ……」
その言葉を無視して、ウェンズは続けました。
「もし一発でアンタが俺を刺し殺したら、アンタの勝ち―――。俺は素直に死んでやるよ。
その代わり一発で殺せなかったら、俺はここからすぐ逃げる。そうなったら絶対アンタ俺を見つける事なんてできない」
彼女は突然、首を振るのを止め、勢い良くウェンズを見ました。
彼女の瞳には驚きと戸惑い、2つの色が見えます。
「え……ウェンズ、あたしを…殺さないの?」
ウェンズは顔の筋肉をピクリとも動かさず、死んだ笑顔で答えます。
「何?殺して欲しい?」
「違…ッ……」
サリは慌てて否定しました。
「でも、それじゃリスクが不公平だし……っ
何より前に、あたしに貴方を刺すなんてできない……!!」
眉毛をハの字にして、目に涙を溜め込んでいるサリを見ながらウェンズは思いました。
(……は? リスク? 不公平?
そもそもコイツがノーマルで俺が死神っつー時点で不公平だろ。
しかも何だよ、急に。……さっきは……ッ)
「さっきまでは“俺”を殺す決意をあんなに輝いた眼で“俺”に語ってたのに?」
わざと“俺”を強調します。
ウェンズには分かっていました。
この言葉が……今のサリの心を最も深く抉るモノだという事を。
――それで俺を憎めばいい。
――ついでに持ってるナイフで心臓でも一突きにしてくれたなら。