運命なんて信じない。
サリがウェンズの背中にしがみ付いていたのです。ウェンズは眉間にシワを寄せ、ギリッと歯を食い縛りました。
「そうまでして俺を殺したいか?アンタは勝負に負け………」
「ダメッ!!!」
彼の不満は、呆気なくサリの今にも泣きそうな声に掻き消されます。
「こんな傷で出ていったら、ウェンズ死んじゃう!!!ダメ、行かないで……!!」
ウェンズは背中に暖かい水分を感じました。
(……ッ、コイツ泣いてんのか? 何で? 俺を逃がしたら、自分の大切な奴らが死ぬからか?)
ウェンズは振り向かず、出来るだけ冷たい声でサリを突き放します。
「俺は死なない。……死神ってのはそーゆー奴だ」
「でもさっきあたしが刺しちゃった時、痛そうな顔してた!!!」
サリも食い下がります。
いい加減イライラしてきたウェンズ。振り払ってでも逃げてやろうと思い、最後に1つ強がりを言おうとしました。
「あんなの痛くも痒くも、―――ッ!!!!」
しかし、その言葉は無残にも途中で途切れます。サリがウェンズの腹の傷を渾身の力で握ったのです。
ウェンズの左腹は、まるで高圧電流でも流したような尋常ではない痛みに襲われます。
「ほら、大丈夫じゃないじゃん!!! 強がってないで早く宿屋に戻らないと。それにその格好で、どこ行くつもりだったの? ウェンズかなりの寒がりでしょ、風邪ひいちゃ――……」
サリがそこまで言った時、彼の身体がグラリと傾きました。
「……えっ」
ドサッ
ウェンズは、土の地面に音を立てて倒れこみます。
「……ちょ、ウェンズ!? 大丈夫!!?」
長い睫毛に閉じた瞼。
細い身体はピクリとも動かず、サリは彼が死んでしまったのではないかと思いました。
(やっぱりあたしがウェンズを刺しちゃったから……ていうか傷を握っちゃったから!!? どうしよう!!!)
サリは焦っていました。
この状況をさっき酒場にいた奴らに見られたら、恐らく彼は―――……
そんな彼女らに、1つの陰が落とされました………