運命なんて信じない。
「……ああ。ここに来るまでに色んな村を通ってきたけど、この村はかなり豊かな方だよ。中には、賊に襲われたりして……村人全員死んでた村もあった」
ジンは箒で、床に落ちた破片を掃いています。
「そうですか……」
ジンが沈痛な面持ちで言いました。
唇を噛み締めて、どこか悔しそうなのは……やはり彼も、歴史オタクの前に医者だからでしょうか。
ウェンズは目を瞑ります。
閉じた瞼の裏側には、今までに会った色々な人達の顔が浮かんできました。
恐怖に怯えた顔。
憎悪に染まった顔。
殺されないように、媚びへつらって機嫌を伺う顔。
自分の本性も知らず、表の姿だけしか知らないくせに自分に無邪気に語りかける顔。
……好奇心に満ちた目でこちらを見てくる、研究員たちの顔。
願わくば全て消しゴムで綺麗サッパリ消し去りたい記憶の数々は、いつの間にか……つい数時間前あったばかりの人々との記憶に変わっていました。