止まない雨
真っ赤な傘と
今にも涙を零してしまいそうな空。
ベンチに腰掛けながら僕の心みたいだ、なんて小説みたいなこと考えてた。実際そんなロマンチックな思考回路を持ってない。
来るはずのない彼女を待っていた。
つい最近送り出したばかりだっていうのになぜかまだ実感が湧いてこない。
今にも「ごめん、遅れた」なんて言いながら走ってきそうなのに。
いよいよぽつりぽつりとアスファルトに模様を作り出す。ザァーという音ともに僕が濡れることなく僕の周りだけ濡れていなかった。上を見ると真っ赤な傘が差されていて、隣りには……
来るはずのない彼女がいた。
「な…んで、」
彼女は、にこりと愛想良く微笑むと『本当に馬鹿だな』と容姿と似合わず男言葉で返した。
「お前がそんなに悲しそうにしてるから行こうにも気になって行けなかっただろうが」
傲慢な態度。全く変わっていなかった。
そっと立ち上がり少しだけ背の低い彼女の頬に触れた。温もりのない冷たい肌。
嗚呼、やっぱり生きてないんだ。
そうだよな、だって彼女は…死んだのだから。
「心配なんて要らないよ」
「馬鹿言え。さっきだって泣きそうだったくせに」
「もう…本当に、大丈夫。だからさ…」
短いショートカットの髪を指で優しく梳いてやる。居心地良さそうに目をつぶる彼女にキスをして、最後のお別れを口にした。
「行っておいで。僕もあと何十年したら行くよ」
顔を俯かせた彼女から、今まで聞いたことないような弱気な声が漏れる。
「最後に…甘えても良いか」
最後だなんて言うなよ。柔らかい彼女を力一杯抱き締めた。いつもは壊れてしまいそうで遠慮がちにしていた力も今はギュッと出来るだけ力を込める。