開かない窓
彼は、あれだけ尊敬していた先輩を亡くしたばかりというのに全然ショックを受けている様子もなく、鼻歌混じりで手際よく足にテーピングをしていく彼を見ていると今までの事が全て悪い夢だったのではないかと思ってしまう自分がいた。

彼はテープを全て巻き終えた後、腕時計を覗き込み悲痛な声をあげた。

「げ、もうこんな時間かよ!?早く行かないとまた月岡さんに怒られる・・・!!」

「つ!?・・・・・・蓮、月岡さんは・・・・・・」

「ん?あ、そういえば今朝から見てないんだよな・・・・・知らね?」

「さ、さぁ・・・・・・?」

俺は曖昧に答えるしかなかった。蓮が何を思ってこんな事を言っているのか本気で解らない。

「・・・・・・おい。」

突然、背後から低い声がした。この声は聞いた事がある。振り返ると、昨日月岡さんに紹介して貰った神条 理悸だった。

「蓮・・・・お前何してる?」

「何、って。神条さんこそ何してるんすか、早く着替えないとペナルティーもんですよっ!!」

「・・・・・・・・・。」
もう言葉が出なかった。俺は、悲しみを紛らわせるための冗談かとも思っていたが、これは流石におかしい。
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