開かない窓
まあ、考えてみればそうだろう。俺の目の前にいる人は日本で5本の指に入ると言われているほど有名な財閥の御曹司なんだから。
当然、「奢ってやる」などと言われた事なんか一度もないだろうし、奢られるという概念すら持ち合わせていないだろうと思われる。

「ご、ごめんなさい・・・・・・じゃあ、今日は帰りましょう!」

「帰る・・・・・・?寝惚けてんのか?行くに決まってんだろ。」

「行くってどこに?」
俺は思わず口を挟んだ。

「は?まっく、じゃないのか?」

神条さんに、明らかに何言ってんだコイツ?的な目で見られた。俺からすれば、アナタこそ何言ってんだと思ったが、視線にだすと怖いので不自然に目を逸らしてしまう。

「え、でもお金ないんですよね?」

「お前から言い出したんだ。当然、奢るんだろう?・・・まっくとかいう店、前から興味はあった。今までなかなか行く機会に遭遇しなかったが、これを機に今日行っておこうと思う。・・・・・・善は急げだ。」

やけに冷静な、でもどこか楽しそうな口調で言うと、早足でスタスタと1人部室を出て行った。

あまりの急展開に、思わず立ちつくしてしまった俺。
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