開かない窓
「…………」

沈黙が濃くなる。俺達はしばらく無言で歩いていたが、俺のずっと前を歩いていた蓮が、クルッと向き直って、両手を合わせた。


「悪い、さっきの忘れて!明日からの事とか考えてたら、色々ナーバスになってた」

「明日?」

「うん、もうすぐインターハイ予選だから。朝練やら放課後自主トレとか、メンドい事が目白押しなのです」

「なんか大変そうだな」

身体がなまるとはいえ、運動部ってこんな時にも、練習しないといけないのか。

つくづく自分には向かないと思った。

「そっ、だから明日明後日は構ってやれない…いや、明日だけ、放課後の練習抜けさせてもらって、一緒に行くわ」

「は?何の事だよ」

「何って……明日は晃の通夜じゃねえか。しっかりしろよ、一緒に行くって話したじゃん」

あ、ああ。そういえばHRでそんな話を誰かとした気がする。あれは蓮だったんだ。


そっか、通夜…か。

完全にこの世界から、晃が居なくなったのを証明する儀式。

今頃、晃はもう棺の中で眠ってるんだよな…そんなの俺は見たくない。見なければ、まだ期待が持てるから。


駄目だ…この期に及んで、俺はいったい何に、期待しているのか?


今でこの調子じゃ、明日はーー


俺は、自分の頬を強く叩いて気合いを入れた。
あーっ!!しっかりしろ、俺!!明日は、ちゃんと晃を見送るんだ。

それが親友に対する、俺なりのけじめってやつだ。その後は、自分に出来る事を精一杯やって、全てが終わったら、全部晃に報告する。

待っててくれよ、晃。


「なあ、優一!!」
複雑そうな顔を浮かべ、沈黙を保っていた蓮が口を開いた。


「なんつーかさ、そんな顔すんなよ。……ほれ、コレをやるから元気出せ!」

と言って、懐から手渡された小さくて黒い球。蓮の体温で暖かくなっていたそれは、触ると妙にフニフニしている。

「何これ?」

「俺が授業中、丹精込めて練り上げた究極の一品【ザ★練り消し太郎】。ま、いわば俺の息子みたいなもんだな」

「何でくれるの?」

「寂しくないように」

「……蓮……!」

「優一!!」
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